豚・ぶた・ブタ　ポーク　川柳　

西村在我：川柳　動物誌（雄山閣出版、昭和60年）17

豚　ぶた　ブタ　

親豚の乳房を　仔豚奪い合い　　　　　　　　　　きよし

おっぱいの数へ　豚の仔うばい合い　　　　　　　とんぼ

母豚の乳房が　足りぬ仔をかばい　　　　　　　　不迷

はみ出した　仔豚遮二無二もぐりこみ　　　　　　如水

豚の仔が十四生れた　赤とんぼ　　　　　　　　　河帆流

産気付く　豚へ　素人気が疲れ　　　　　　　　　あい子

豚が仔を生んで　畑へ出そびれる　　　　　　　　茶六

種豚の眼中　人なき振舞いす　　　　　　　　　　紅丸

種豚の　世に満ち足りた面構え　　　　　　　　　紺矢

豚の仔へ　一かたまりの陽が温い　　　　　　　　得峰

豚の仔を　ゴム紐売りが来て覗き　　　　　　　　献上

ゴム鞠のように　仔豚が駆け廻り　　　　　　　　秋の月

量られて売られる　仔豚少し啼き　　　　　　　　鱗太郎

金切声上げて　仔豚は買われてく　　　　　　　　古柳丸

地下鉄の入口に似た　豚の鼻　　　　　　　　　　秋の月

空腹の豚　天井へ鼻を向け　　　　　　　　　　　久悦

吸盤の様に動かす　豚の鼻　　　　　　　　　　　史楼丸

餌のある方へいきなり　豚の鼻　　　　　　　　　みのる

ヨークシャもバークシャもない　豚の鼻　　　　　賢一郎

蠅を追う　豚のしっぽが短かすぎ　　　　　　　　とんぼ

よく肥えた　豚のしっぽのこれっきり　　　　　　恵世

商売に飼う　豚だけど尾を振られ　　　　　　　　突風

村長が道を譲った　豚の鼻　　　　　　　　　　　高司

優勝の　豚へブラッシ掛けてやり　　　　　　　　愚蓮子

氏素性　豚にもあった品評会　　　　　　　　　　迂子

横転の車村中　豚と駆け　　　　　　　　　　　　紫幽

豚逃げて上から笑う　架線工　　　　　　　　　　弘温

無我夢中　豚顔中で餌を喰い　　　　　　　　　　きよし

豚の口くったくもなく　まだ動き　　　　　　　　芳浪

胃腸薬　豚の食慾見て帰り　　　　　　　　　　　秋の月

遠花火　蚊やりの豚とふける縁　　　　　　　　　五迷亭

瀬戸物の豚は　蚊を追う煙を吐き　　　　　　　　生児

1980年ごろイリノイ大学からミュンヘン大学に移動することになった。シャンペーンにあった日本食料品店“Ginza”の方が豚の蚊遣りをくれた。ドイツでの最初の滞在地コッヘルアムゼーでお世話になったFamilie　Hinzが荷物からそれを見つけ、取り上げられてしまった。アメリカから持っていったものでも、豚の蚊遣りは日本的なものと見えたのだろう。

豚　あっと言ったはカツにされた夢　　　　　　　敏行

見本とは違う薄手な　カツライス　　　　　　　　万柳

本当のトンカツが出る　誕生日　　　　　　　　　花川洞

珍客へ　小豚の命喜ばれ　　　　　　　　　　　　弦月

国賓へ酋長　豚を丸で焼き　　　　　　　　　　　実

丸焼きの豚　陳さんに嫁が来る　　　　　　　　　真砂

丸焼きの豚　爆竹の音で喰い　　　　　　　　　　生児

豚小屋も　一番鶏の声に起き　　　　　　　　　　市六

挨拶もなく　豚小屋へ鶏が寄り　　　　　　　　　如水

豚小屋の蠅まで　豚と寝起きする　　　　　　　　賢一郎

豚小屋は産児制限　露知らず　　　　　　　　　　茶暮天

定年を　豚の尻っぽの役に耐え　　　　　　　　　李渓