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ここでは蕪村の時代の俳句を紹介する。
渡辺一雄：蕎麦の俳句 （東京書房社、昭和56年）
甲斐が根の 雲 斜なる 夕月に
あかねさす 加登 見しは 蕎麦茎
蕎麦切も かねて期したる 腹なれば
春を愁る 姨（オバ）すての月
秋の詩を 蕎麦の袋に 題すらん
八月十日夜半亭
帰去来酒は あしくも そばの華
故郷や酒は あしくも そばの花
題 白 川
黒谷の隣は しろし そばの花
落日の潜りて 染る 蕎麦の茎
水 かれがれ 蓼歟あらぬ歟 蕎麦 歟否歟
蕎麦に 呼ばるる 関の人々
宮城野の萩 更科の蕎麦に いづれ
道のべや 手よりこぼれて 蕎麦の花
秋はものの そばの不作も なつかしき
蕎麦 刈りて いるや 我ゆく道のはた
根に帰る花や 吉野の 蕎麦畠
柿の葉の 遠く散りきぬ 蕎麦畠
一つ家の かしこ顔なり 蕎麦の花
貧居八詠
我のみの 柴折くべる 蕎麦湯哉
根に帰る 花や吉野の 蕎麦畠
貧居
我のみの 柴折くべる 蕎麦湯哉
蕎麦あしき 京をかくして 穂麦哉
蕎麦売が 奇麗自慢や 冬の月
大根も 葱もそこらや 蕎麦の花
蕎麦打テば 山葵ありやと 夕かな
そばの花 畠の秋も 後段かな
麓から しらむ夜明や 蕎麦畑
新蕎麦に 猿聞く山の 夕哉
熱海湯前権現
新蕎麦や 疝気に利生 見せたまへ
優曇華は 見た人もなし 蕎麦の花
夜咄の約束 遠し 蕎麦の華
蝶鳥の目にも後段や 蕎麦の花
新蕎麦とこそ 三盃の夢ののち
新蕎麦や 座敷で悟る 棒の音
船毎に 蕎麦呼ぶ月の 出汐かな
旅中佳節
馬の背の 高きに登り 蕎麦の花
駕舁は 畠ぬしなり 蕎麦の花
花そばや 立出て見れば ましろなる
二三升 蕎麦粉 えまほし我畠
しなのぢや 小田は粉雪に 蕎麦畑
蕎麦畑を 一重帯かな 山の腰
蕎麦切を 五間打ぬく 桟敷にて
新蕎麦を ねだり忘れて 出舟哉
打板に 麺棒添て 暮の月
新蕎麦の 勝手もさびて 茶漬比
蕎麦切や 浮世の蝿の 萱艸（ワスレナグサ）
蕎麦の はしりの すきときれたり
松が枝に 戻るもはやき 親烏
蕎麦は 黒いをもって 此の君
幸阿弥が 影もして 置玉兎
秋海棠は 蕎麦の茎かも
宗旨違いも 脱ば 中よし
かつたりと来たは うどんか 蕎麦切か
寝覚の里
そば切に 昼の寝覚の 若葉かな
谷川の音には 夢もむすばじを
ねざめの床と 誰が名づくらん
出がはりは あの世も二月二日かな
月を実に むすびやすらん そばの花
そばかりや よごれし袖も なつかしく
此頃の 銀河や 落て そばの花
月 入て 暗ともならず 蕎麦の花
戸隠の山坊に宿す
なつ そばや 辛味のぬけぬ 滝の音
月こよひ 腹に入みたる 信濃そば
名月は 蕎麦の花にて 明にけり
それそこに 更科河や そばの花
河中島
そば畑や 平かかりに 啼鳥
そばの花 峰は浅間の ゆふ畑
曙や 田毎の外は そばのはな
苅蕎麦の 真の新を 捧げばや
サーハー 山で白いのは
オサギ（兎）か ヨキ（雪）か
里で白いのは サー
ショバ（蕎麦）の ふわな（花）
お寺さ 行くとて 蕎麦屋さ
行ったば みんなに笑われた
芭蕉庵興行
新蕎麦の ふるまひ続く 里里に
ややおさまりし 甲斐の一乱
朱弦亭興行
秋もみどりの 畳講中
蕎麦 一斗打 草臥し 暮の月
蕎麦前に このわた人よ ふとん酒
そば粉を 人のもとへ送る
うす墨にかく 玉草の氷かな
遠乗に そば屋が 城の落葉かな
新そばや 聟の河津は 勝手詰
城跡の一段高し 蕎麦の花
棚橋や 夢路をたどる 蕎麦の花
月九分 あれ野の 蕎麦よ 花一つ
新そばや 行水畳む 重の内
しんそばや 刻む田毎の さざれなみ
新そばや 看板ばかり 月の色
しんそばや 遁さぬ 膳に落し水
己が雪に さらし上てや そばの花
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